株式会社博愛社 オーロラホール
代表取締役社長:村上 武白さん
今回は株式会社博愛社の村上社長にお話をお伺いしました。
非常に高いサービス満足度の秘密や、社会貢献や地域との深い繋がりから生まれたサービス、さらにはご自身が経験された生花部門の立ち上げと会社の立て直しまで、興味深いお話をたくさん伺うことができました!
こちらは【インタビュー 前半】となります。
前半では、高い顧客満足度に繋がる博愛社のオプションサービス誕生の裏側や、社員ごとの独自性を大切にしたサービス、また思わぬ理由からお客様満足度が向上したお話まで博愛社にまつわる様々なお話をお聞かせいただきました!
社員一丸となって良いサービスを追求されてきた結果だと思いますが、日頃から特に大切にされていることはありますか?
弊社では年間1000件くらい葬儀のお手伝いをしていますが、その中にはどうしてもお応えできないご要望も存在します。ですがその場ですぐに「できません」とは言わず、必ず何か代替案をご用意することを意識してもらっています。
とはいえ、このような事を社員に言い始めたのは13~14年前からなんです。
13~14年前に何かあったんですか?
村上社長:その時期の弊社は、経営的にかなり厳しくて、倒産の危機にまで陥っていました。経営を立て直すためには根本的な改革をしなければという事で、まずは目指す方向性を定めることにしました。
当時はすでに、あちこちの互助会が色々なところに式場を建てている時代でしたから、そうした中で、「これから葬儀業界の一番になるのは難しいだろう」「今から全国展開しているところに追いつくのは難しいだろう」と考えました。
ですが『日本一「ありがとう」と言っていただける会社』なら目指せるんじゃないかと考えて、その結果、今のNOとは言わない接客業という方針が生まれました。
なるほど、そういった経緯で掲げられた方針なんですね。
村上社長:はい、そうしたこだわりから2年ほど前に品質管理専門の部署も立ち上げました。社員が増えてきたことで、提供するサービスにばらつきが出てきている事に懸念を感じ始めていたので、改革の一環としてそれまで葬祭事業の本部長だった人に品質管理をお願いすることにしたんです。
組織が大きくなってくると、サービス品質を一定に保つのは簡単ではありませんよね。
村上社長:本当にそう思います。
そこで、品質管理の担当者が現場を見回って、どんなサービスを提供しているのか実際に確認するようにしています。1日に5件から6件程度依頼が入りますが、担当者がどの現場を見に行くのかは、来るまで分からないようになっています。
抜き打ちで見回りがあるんですね。
村上社長:そうです。
今後さらに会社の規模が大きくなった場合でも、規模が小さかったころと同じように、統一された品質でサービスが提供できることが目標です。
品質管理の部署を立ち上げるにあたっては、優秀な人材を一人葬儀の現場から外すことになるので、最初は踏み出すのに少し勇気が必要でした。ただ2年くらい続けてきたことで、かなりお客様からの評価も上がったと実感しているので、思い切って決断して良かったなと思いますね。
品質管理というのは具体的にはどのような事をされているんでしょうか?
村上社長:現場の見回りをする際に、チェックシートを用意して項目ごとに確認をしていきます。修正すべき点が見つかった場合には、現場から持ち帰ってからマネージャーのチームで共有した後、葬祭ディレクターへ個別に共有される流れになっています。
その場で伝える訳では無いんですね。
村上社長:はい、現場では内容を伝えないことにしています。何故かというと、その場で伝えてしまうと葬儀の雰囲気が変わってしまい、悪い影響を与えてしまうことがあるからです。
弊社では基本的に、それぞれの葬祭ディレクターの個性を大切にしていますが、接遇やホスピタリティに関しては高いレベルで統一されるように取り組んでいます。
そうした接遇指導については、新卒から20年近く大手のホテルで勤務したのち、弊社へ転職してきた社員にお願いしています。
立ち振る舞いや接客が洗練されていて素晴らしいので、安心してお任せしています。
ほかにはLINEワークス上で返信不要の褒めるだけのグループを作っていて、誰かがやって良かったサービスや気持ちよかった挨拶など、些細なことでも共有するようにしています。サンクスカードやありがとうカードと似たような取り組みです。
こちらもかなり活発に動いていて、こうしたこともサービス品質の維持・向上につながっていると思います。
10年以上も改革を続けてきた結果が、現在の評価に繋がっているんですね。
村上社長:オプションサービスについては毎月行っている会議の中で、色々と検討しながら開発を進めていくものが多いです。あとは社員から上がってくる意見が反映されることも沢山あります。
良いアイディアがあれば、一回やってみようというスタンスですね。
キャンペーンを使って試験的に提供してみて、売れるようなら商品化していく流れです。
正直「これは無理かな」と思うこともありますが、そこで無理と言ってしまうとせっかくアイディアを出してくれた社員のモチベーションも下がってしまいます。それにうまく成功したら、ひとつ会社に貢献できたという成功体験になり自信に繋がります。
ですからなるべく幅広く意見を取り入れるようにしています。
村上社長:沢山ありますよ!
たとえば最近では、胡蝶蘭だけで作った喪主花の提供を始めました。
たまたまお付き合いのある大阪の葬儀社さんの見学をさせていただいた時に、そういう商品がある事を知りました。それとほとんど同じタイミングで、社員からも胡蝶蘭だけで作った喪主花の提案があったんです。そこでアイディアを集めて、商品の提供を始めました。
この商品は非常に好評で、コロナ禍の最初2,3か月で売り上げが大きく落ちてしまった時には、経営的にとても救われましたね。
あと、追加料金が発生するオプションではなくサービスとして行っていることもあります。
葬儀の打ち合わせを開始する前に必ず故人様のことを良く知る事からスタートするということをルールにしているです。例えば故人様の生い立ちや、休日の家族との過ごし方、趣味など色々なことを教えていただきます。
そこでお伺いした情報をLINEワークスのグループに共有して、葬儀に携わっているスタッフと事務員さんで、ご家族に対して何かできるサービスが無いか、サプライズができないか意見を出し合うことも多々あります。
そうしたサプライズを演出するために必要な経費は、ある程度の範囲内ですが社員が自由に使えるようにしています。その中で各自購入してくるものもあれば、手作りすることもあって、色々とやっていますね。
例えば以前、野球のジャイアンツファンだった方の葬儀では、ジャイアンツグッズをたくさん買ってきて祭壇に飾ったり、永久観戦チケットを手作りしてお孫さんに棺の中に入れていただいたりもしました。
とても良い取り組みですね!でもいざ挑戦するとハードルが高そうです。
村上社長:おっしゃる通り手間暇がかかって一から始めるのも大変です。そのためこうしたサプライズサービスについては、この地域では弊社以外にやっている会社さんはないと思います。
実はこのサービス、最初にやりたいと言い出したのは僕でした。浸透するまでに3年から5年くらいはかかってしまいましたが、今はみんながやってくれるようになりました。
それぞれご遺族がこうしてほしいとおっしゃることにお応えするのはもちろんですが、スタッフからこうして差し上げたいという形で提供できることがあっても良いよなと思っています。
もちろんご遺族と一緒に考えて、こういうことをするのはどうでしょう?とご提案することもあります。
例えば故人様が大好きだった思い出の場所を回ったり、ずっとご自宅に帰れていなかった故人様の場合であればご自宅の前まで伺ったり、そのプラン以外にプラスアルファの提案をすることを心がけています。
そうなんですね、今までにご提案したサービスで印象的なものはありますか?
村上社長:毎日新聞を読みながらコーヒーを飲むことを日課にされていた方の葬儀の場合では、葬儀の予定時刻より少し早い時間にお孫さんやお子さんに集まっていただいて、一緒にコーヒー豆を挽いてドリップし、お供えをしたことがあります。
皆さん楽しそうに過ごしてくださって、非常に印象に残っていますね。
こうしたことは自然と口コミに繋がります。ありがたいことに「ご近所の方から博愛社で葬儀をやってよかったと聞いたのでお願いしたい」というお客様もおられます。
確かに、このようなサプライズやサービスを経験したら、ほかの方に紹介をしたくなる気持ちは非常に分かります。
村上社長:実は10年くらい前から、葬儀が終わった後の収益にも注目をしているんです。
最初のきっかけは、若手の経営者が集まるような青年会議所や商工会議所の青年部に様々な業種の知り合いがいた事でした。知り合いとネットワークを組んで、新しい商売ができたら面白いだろうな、とずっと考えていました。
ネットワーク内にはいろんな業種の人たちがいるので、例えば遺品整理やリフォーム、自宅の解体工事まで、対応可能な会社を弊社から紹介することができると思いついたんです。
そこで実際に声をかけて、互いにサービスを必要としているお客様を紹介することにしました。
では、逆に葬儀をお願いしたいからと紹介を受ける場合もあるわけですね。 村上社長:そうです。
最初はちょっとずつ、緩やかに進めていましたが、ある時期に葬儀の金額を値下げしたことがあったんです。その時に、安く葬儀を行うためには葬儀が終わった後にも収益を上げていく必要があることに気がつきました。
それまでは葬儀の金額が高くなれば、葬祭ディレクターの給与も増やしていけると思っていましたが、そうすると葬儀の単価が上がる一方になってしまいます。
それに最初の見積もりから大きく費用が変わるというのは、お客様にとって良いことではありません。
とはいえ、弊社は比較的地価の高い駅の周辺に店舗を構えているため、どうしてもランニングコストが大きくなってしまいます。
そこで葬儀だけではなくほかに収益を上げて、その収益を葬祭ディレクターの給与に反映していこうと考えました。
なるほど、どんなシステムで給与に反映されているのでしょうか。 村上社長:例えば一件葬儀を行いますよね。その葬儀が終わった後に、不動産や、仏壇仏具の購入についてご相談を頂いた場合、弊社からネットワーク内の会社を紹介させていただきます。
弊社はその紹介した会社から紹介料をいただくのですが、頂いた金額の20%が従業員のインセンティブとして支給されるようにしました。
実はこの制度を作ったことで、思わぬ効果もありました。
こうした葬儀後のことについては、葬儀を通じてお客様から本当に信頼していただかなければご相談をいただけません。そのため各自がご信頼をいただけるようにさらに努力するようになった結果、葬儀のレベルがぐんと上がって、お客様からの評価も良くなりました。
こうなる事は予測していませんでしたが、とても良い結果に繋がったと感じています。
思わぬ形で良い効果の波及があったんですね。
他にも新たに取り組まれていることはあるのでしょうか。 村上社長:実は今、不動産事業を開始しようと考えてスキーム作りをしています。
弊社の葬祭場周辺は住宅価格が比較的高く、不動産を所有しているだけで必ず相続税の対象になってしまう地域なんです。マンションもかなり高額で、相続税は避けて通れない問題です。
ご遺族がすでに別の地域に引っ越していれば、必ず不動産は売却することになりますが、そうした情報が最初に入ってくるのが葬儀社なんです。
確かに葬儀の場では自然とそういったお話も話題に上りますね。 村上社長:そうなんです。
そこで、そうした不動産の売却のお手伝いをしようと考えています。
先ほどもお話した通り、葬儀の打ち合わせ前に故人様について様々な聞き取りを行っているのですが、その際に持ち家なのか、借家なのか、お子様は地元に住んでいらっしゃるのか、などの情報も集めるようになりました。
そうした情報を残しておいて、今所有している不動産に誰もお住まいにならないということが分かれば、弊社のアフターケア担当が不動産についてのお話をする…というような流れを今年からスタートしています。
スタートしてまだ半年経っていませんが、すでに4件の買い取り依頼をいただいた実績があるんですよ。
現状はまだスキームが完全に確立していないので、ご依頼をいただいたら提携している不動産にその後の買い取りをお任せしていますが、仲介手数料としていくらか頂くだけでもかなりの金額になります。
こうしたサービスを3,4年後には自社で担えることを目指しています。
そのためにも、弊社はこの地域で何かしらの一番にならなきゃ駄目だと考えています。
ですが売り上げが業界で一番大きな会社を今から作れるか?というと、最初にお話させていただいたとおりなかなか難しいですし、さいたま市の一番になることもかなり難しいことです。
そこでまずは、会社の最寄りであるこの駅で一番の葬儀屋になろうということを心がけています。新しく出店するときも、例えば隣の駅などの小さなエリアで少しずつ一番になって、ドミナントでやっていけたら良いなと思っています。
そこで広告についても、一体どんな広告をどんな媒体で出すのかと沢山考えました。
たとえば大々的に打てるテレビCMは良いですが、かなりお金がかかります。それに必ず地元の人がご覧いただけるかは分かりません。
地元に密着してドミナントでやっていくなら、地元で目に付くところに大きな広告を出していこうという方針になりました。
そこで最寄り駅に大きな看板広告を出すようになったんです。
そうして少しずつ利益が出てきたので、色々な所に貢献をしたいなと考えました。例えば自転車のロードチームのスポンサーを始めたのも、スポーツを通じて地域を盛り上げていけたらといいな、と思ったことが始まりです。
弊社は代々この浦和という地で葬儀業を営んできましたから、地域で利益を出せる様になったら、街が盛り上がるような行事やイベントにたくさん協賛して還元していきたいなと、そういう風に思っています。
浦和のスポーツというと、個人的にはサッカーのイメージが非常に強いですが、それ以外にも地域に根付いたスポーツがたくさん生まれてくれたら面白そうですね。
村上社長:そうですよね。
自転車のロードチームを現在は応援していますが、新しく卓球のプロチームと、バスケットボールのチームもできたのでスポンサーになりたいなと考えています。
スポーツを応援することでどんどん地域を盛り上げていくことに貢献できたら、それはとても嬉しいことですね。
あとはプロスポーツのスポンサーだけでなく、コロナ禍以前は会員様向けのバスツアーや、地域のお祭りに露店を出したりもしていました。露店ではベーコンを焼いたりビールを売ったりして、収益はさいたま市に寄付していたんですよ。
弊社を知っていただくことも大切ですが、スタッフと街の人たちの交流から生まれる良い影響もあると考えています。こうした交流を経て、スタッフのファンが生まれてくれたら良いなと思います。
葬儀のサプライズのお話でも感じましたが、スタッフさんの独自性を大切にされているんですね。
村上社長:はい、今運営しているYoutubeチャンネルでもゆくゆくはスタッフ一人ひとりの仕事風景を紹介する動画を作成したいなと思っています。
実はバスツアーやお祭りを企画するための予算が、昨今のコロナ禍でそのまま手付かずになっていたんです。使わないのももったいないので、その予算を使って機材を揃えてYoutubeチャンネルを開設することになりました。
弊社のお客様はシニア層が多いので、最初はYoutubeチャンネルを持つのはまだ早いかなとも思っていました。ですが、Youtubeを通してどんな会社なのか、どんな人が働いているのかという事を知っていただき、少しでも身近に感じていただけるツールになればいいのかな、という思いで始めることにしました。
実際ゲストはほとんど呼ばず、自社のスタッフだけで動画制作をしています。
編集作業についても、最初は商工会議所の知り合いへ依頼していましたが、今は弊社の事務員でやりたいと言ってくれた社員がいるのでお任せしているんですよ。
まだまだ浸透するには時間がかかると思いますが、将来的にはYoutubeやLINE@に登録していただいて、色々な告知をご覧いただけるようになる…という風にしたいですね。そのために今からコンテンツを充実させておこうと思って頑張っています。
ありがとうございます。
それでは前半最後ということで、これから葬儀業界を目指したい方や、貴社にこれから応募したいという方に向けてメッセージをお願いします。
村上社長:葬儀業界を変えたい!という方にぜひ頑張っていただきたいですね。
というのも、葬儀業界や仏事業界はブラックボックスのような時代が長く続いてきました。だんだんとそうした時代は終わりに向かっていますが、古い考え方をする人はまだたくさんいます。ですから一緒にもっとホワイトな業界にしていけたら良いなと思います。
少し業種が変わりますが、ブライダル業界のようになれたら良いなと思っているんです。
葬儀とは真逆で、コロナ禍で結婚式の件数が減り、結婚する人も減っているのにブライダル業界の単価は右肩上がりなんですよ。それはサービスの質を追求し続けて研鑽した結果じゃないかな、と私は思っています。
ところが葬儀業界は亡くなる人が増えているのに、どんどん単価が下落しています。葬儀にお金を払う価値をお客様が見いだせなくなっているからではないかな、と私は考えています。お金を払う対価に見合ったサービスを提供できていれば、お客様も必ず満足してくださるはずです。
ですからサービスの質を高めていくことを業界全体で取り組んでいきたいなと思っています。
業界全体を底上げできれば、葬儀業界がよくなります。単価の下落や価格競争から抜け出して「葬儀業は究極のサービス業だよね」って言って頂けるのを一緒に目指していきたいですね。
ありがとうございます。
編集後記 前編
地域に根差した会社運営や、提供されるサービスへの高いこだわりだけでなく、これからこんなサービスも作りたいという将来のビジョンについてもこっそり教えていただきました。
葬儀のその後に繋がるサービスの提供まで行うことで、葬儀自体のクオリティとお客様の評価が上がったというお話を伺った時は、驚きと同時に納得してしまいました。
今後はより提供するサービスの向上を図ることで、価格競争を脱したいと話す村上社長。新しいサービスも考え中とのことで、これからの博愛社からも目が離せません!
非常に高いサービス満足度の秘密や、社会貢献や地域との深い繋がりから生まれたサービス、さらにはご自身が経験された生花部門の立ち上げと会社の立て直しまで、興味深いお話をたくさん伺うことができました!
こちらは【インタビュー 前半】となります。
前半では、高い顧客満足度に繋がる博愛社のオプションサービス誕生の裏側や、社員ごとの独自性を大切にしたサービス、また思わぬ理由からお客様満足度が向上したお話まで博愛社にまつわる様々なお話をお聞かせいただきました!
高評価につながる「常にお客様ファースト」の精神
早速ですが今回は貴重なお時間を頂き、ありがとうございます。 インタビューをさせていただくにあたり貴社のホームページを改めて拝見したのですが、お客様や様々な格付け機関からの評価が非常に高いことに驚きました。社員一丸となって良いサービスを追求されてきた結果だと思いますが、日頃から特に大切にされていることはありますか?
今回はzoomにてインタビューにお応え頂いた、博愛社の村上社長。とても気さくな方で、たくさんのお話を聞かせていただきました!
村上社長:大切にしていることは「常にお客様ファースト」であることです。
基本的にはNOとは言わない接客業を目指そうと社員にも伝えているんですよ。弊社では年間1000件くらい葬儀のお手伝いをしていますが、その中にはどうしてもお応えできないご要望も存在します。ですがその場ですぐに「できません」とは言わず、必ず何か代替案をご用意することを意識してもらっています。
とはいえ、このような事を社員に言い始めたのは13~14年前からなんです。
13~14年前に何かあったんですか?
村上社長:その時期の弊社は、経営的にかなり厳しくて、倒産の危機にまで陥っていました。経営を立て直すためには根本的な改革をしなければという事で、まずは目指す方向性を定めることにしました。
当時はすでに、あちこちの互助会が色々なところに式場を建てている時代でしたから、そうした中で、「これから葬儀業界の一番になるのは難しいだろう」「今から全国展開しているところに追いつくのは難しいだろう」と考えました。
ですが『日本一「ありがとう」と言っていただける会社』なら目指せるんじゃないかと考えて、その結果、今のNOとは言わない接客業という方針が生まれました。
なるほど、そういった経緯で掲げられた方針なんですね。
村上社長:はい、そうしたこだわりから2年ほど前に品質管理専門の部署も立ち上げました。社員が増えてきたことで、提供するサービスにばらつきが出てきている事に懸念を感じ始めていたので、改革の一環としてそれまで葬祭事業の本部長だった人に品質管理をお願いすることにしたんです。
組織が大きくなってくると、サービス品質を一定に保つのは簡単ではありませんよね。
村上社長:本当にそう思います。
そこで、品質管理の担当者が現場を見回って、どんなサービスを提供しているのか実際に確認するようにしています。1日に5件から6件程度依頼が入りますが、担当者がどの現場を見に行くのかは、来るまで分からないようになっています。
抜き打ちで見回りがあるんですね。
村上社長:そうです。
今後さらに会社の規模が大きくなった場合でも、規模が小さかったころと同じように、統一された品質でサービスが提供できることが目標です。
品質管理の部署を立ち上げるにあたっては、優秀な人材を一人葬儀の現場から外すことになるので、最初は踏み出すのに少し勇気が必要でした。ただ2年くらい続けてきたことで、かなりお客様からの評価も上がったと実感しているので、思い切って決断して良かったなと思いますね。
品質管理というのは具体的にはどのような事をされているんでしょうか?
村上社長:現場の見回りをする際に、チェックシートを用意して項目ごとに確認をしていきます。修正すべき点が見つかった場合には、現場から持ち帰ってからマネージャーのチームで共有した後、葬祭ディレクターへ個別に共有される流れになっています。
その場で伝える訳では無いんですね。
村上社長:はい、現場では内容を伝えないことにしています。何故かというと、その場で伝えてしまうと葬儀の雰囲気が変わってしまい、悪い影響を与えてしまうことがあるからです。
弊社では基本的に、それぞれの葬祭ディレクターの個性を大切にしていますが、接遇やホスピタリティに関しては高いレベルで統一されるように取り組んでいます。
そうした接遇指導については、新卒から20年近く大手のホテルで勤務したのち、弊社へ転職してきた社員にお願いしています。
立ち振る舞いや接客が洗練されていて素晴らしいので、安心してお任せしています。
ほかにはLINEワークス上で返信不要の褒めるだけのグループを作っていて、誰かがやって良かったサービスや気持ちよかった挨拶など、些細なことでも共有するようにしています。サンクスカードやありがとうカードと似たような取り組みです。
こちらもかなり活発に動いていて、こうしたこともサービス品質の維持・向上につながっていると思います。
10年以上も改革を続けてきた結果が、現在の評価に繋がっているんですね。
葬儀のオプションサービスにプラスアルファ!サプライズを行う狙いとは
貴社では葬儀に付随するオプションサービスがかなり多い印象を受けました。こうしたサービスはどのように作られていくのでしょうか?村上社長:オプションサービスについては毎月行っている会議の中で、色々と検討しながら開発を進めていくものが多いです。あとは社員から上がってくる意見が反映されることも沢山あります。
良いアイディアがあれば、一回やってみようというスタンスですね。
キャンペーンを使って試験的に提供してみて、売れるようなら商品化していく流れです。
正直「これは無理かな」と思うこともありますが、そこで無理と言ってしまうとせっかくアイディアを出してくれた社員のモチベーションも下がってしまいます。それにうまく成功したら、ひとつ会社に貢献できたという成功体験になり自信に繋がります。
ですからなるべく幅広く意見を取り入れるようにしています。
実際にアイディアから商品化された喪主花。胡蝶蘭がたっぷり使用されていて、とても華やかで豪華な印象です。
実際に社員さんからの意見で商品化されたオプションはありますか?村上社長:沢山ありますよ!
たとえば最近では、胡蝶蘭だけで作った喪主花の提供を始めました。
たまたまお付き合いのある大阪の葬儀社さんの見学をさせていただいた時に、そういう商品がある事を知りました。それとほとんど同じタイミングで、社員からも胡蝶蘭だけで作った喪主花の提案があったんです。そこでアイディアを集めて、商品の提供を始めました。
この商品は非常に好評で、コロナ禍の最初2,3か月で売り上げが大きく落ちてしまった時には、経営的にとても救われましたね。
あと、追加料金が発生するオプションではなくサービスとして行っていることもあります。
葬儀の打ち合わせを開始する前に必ず故人様のことを良く知る事からスタートするということをルールにしているです。例えば故人様の生い立ちや、休日の家族との過ごし方、趣味など色々なことを教えていただきます。
そこでお伺いした情報をLINEワークスのグループに共有して、葬儀に携わっているスタッフと事務員さんで、ご家族に対して何かできるサービスが無いか、サプライズができないか意見を出し合うことも多々あります。
そうしたサプライズを演出するために必要な経費は、ある程度の範囲内ですが社員が自由に使えるようにしています。その中で各自購入してくるものもあれば、手作りすることもあって、色々とやっていますね。
例えば以前、野球のジャイアンツファンだった方の葬儀では、ジャイアンツグッズをたくさん買ってきて祭壇に飾ったり、永久観戦チケットを手作りしてお孫さんに棺の中に入れていただいたりもしました。
とても良い取り組みですね!でもいざ挑戦するとハードルが高そうです。
村上社長:おっしゃる通り手間暇がかかって一から始めるのも大変です。そのためこうしたサプライズサービスについては、この地域では弊社以外にやっている会社さんはないと思います。
実はこのサービス、最初にやりたいと言い出したのは僕でした。浸透するまでに3年から5年くらいはかかってしまいましたが、今はみんながやってくれるようになりました。
それぞれご遺族がこうしてほしいとおっしゃることにお応えするのはもちろんですが、スタッフからこうして差し上げたいという形で提供できることがあっても良いよなと思っています。
もちろんご遺族と一緒に考えて、こういうことをするのはどうでしょう?とご提案することもあります。
例えば故人様が大好きだった思い出の場所を回ったり、ずっとご自宅に帰れていなかった故人様の場合であればご自宅の前まで伺ったり、そのプラン以外にプラスアルファの提案をすることを心がけています。
そうなんですね、今までにご提案したサービスで印象的なものはありますか?
村上社長:毎日新聞を読みながらコーヒーを飲むことを日課にされていた方の葬儀の場合では、葬儀の予定時刻より少し早い時間にお孫さんやお子さんに集まっていただいて、一緒にコーヒー豆を挽いてドリップし、お供えをしたことがあります。
皆さん楽しそうに過ごしてくださって、非常に印象に残っていますね。
こうしたことは自然と口コミに繋がります。ありがたいことに「ご近所の方から博愛社で葬儀をやってよかったと聞いたのでお願いしたい」というお客様もおられます。
確かに、このようなサプライズやサービスを経験したら、ほかの方に紹介をしたくなる気持ちは非常に分かります。
葬儀会社だからこそ、葬儀の後も幅広くフォローするサービスができる
サービスといえば、貴社では葬儀以外のサービスも幅広く提供されていますよね。遺品整理なども行っておられますが、こうした様々なサービスはどういったきっかけからスタートしたのでしょうか。村上社長:実は10年くらい前から、葬儀が終わった後の収益にも注目をしているんです。
最初のきっかけは、若手の経営者が集まるような青年会議所や商工会議所の青年部に様々な業種の知り合いがいた事でした。知り合いとネットワークを組んで、新しい商売ができたら面白いだろうな、とずっと考えていました。
ネットワーク内にはいろんな業種の人たちがいるので、例えば遺品整理やリフォーム、自宅の解体工事まで、対応可能な会社を弊社から紹介することができると思いついたんです。
そこで実際に声をかけて、互いにサービスを必要としているお客様を紹介することにしました。
では、逆に葬儀をお願いしたいからと紹介を受ける場合もあるわけですね。 村上社長:そうです。
最初はちょっとずつ、緩やかに進めていましたが、ある時期に葬儀の金額を値下げしたことがあったんです。その時に、安く葬儀を行うためには葬儀が終わった後にも収益を上げていく必要があることに気がつきました。
それまでは葬儀の金額が高くなれば、葬祭ディレクターの給与も増やしていけると思っていましたが、そうすると葬儀の単価が上がる一方になってしまいます。
それに最初の見積もりから大きく費用が変わるというのは、お客様にとって良いことではありません。
とはいえ、弊社は比較的地価の高い駅の周辺に店舗を構えているため、どうしてもランニングコストが大きくなってしまいます。
そこで葬儀だけではなくほかに収益を上げて、その収益を葬祭ディレクターの給与に反映していこうと考えました。
なるほど、どんなシステムで給与に反映されているのでしょうか。 村上社長:例えば一件葬儀を行いますよね。その葬儀が終わった後に、不動産や、仏壇仏具の購入についてご相談を頂いた場合、弊社からネットワーク内の会社を紹介させていただきます。
弊社はその紹介した会社から紹介料をいただくのですが、頂いた金額の20%が従業員のインセンティブとして支給されるようにしました。
実はこの制度を作ったことで、思わぬ効果もありました。
こうした葬儀後のことについては、葬儀を通じてお客様から本当に信頼していただかなければご相談をいただけません。そのため各自がご信頼をいただけるようにさらに努力するようになった結果、葬儀のレベルがぐんと上がって、お客様からの評価も良くなりました。
こうなる事は予測していませんでしたが、とても良い結果に繋がったと感じています。
思わぬ形で良い効果の波及があったんですね。
他にも新たに取り組まれていることはあるのでしょうか。 村上社長:実は今、不動産事業を開始しようと考えてスキーム作りをしています。
弊社の葬祭場周辺は住宅価格が比較的高く、不動産を所有しているだけで必ず相続税の対象になってしまう地域なんです。マンションもかなり高額で、相続税は避けて通れない問題です。
ご遺族がすでに別の地域に引っ越していれば、必ず不動産は売却することになりますが、そうした情報が最初に入ってくるのが葬儀社なんです。
確かに葬儀の場では自然とそういったお話も話題に上りますね。 村上社長:そうなんです。
そこで、そうした不動産の売却のお手伝いをしようと考えています。
先ほどもお話した通り、葬儀の打ち合わせ前に故人様について様々な聞き取りを行っているのですが、その際に持ち家なのか、借家なのか、お子様は地元に住んでいらっしゃるのか、などの情報も集めるようになりました。
そうした情報を残しておいて、今所有している不動産に誰もお住まいにならないということが分かれば、弊社のアフターケア担当が不動産についてのお話をする…というような流れを今年からスタートしています。
スタートしてまだ半年経っていませんが、すでに4件の買い取り依頼をいただいた実績があるんですよ。
現状はまだスキームが完全に確立していないので、ご依頼をいただいたら提携している不動産にその後の買い取りをお任せしていますが、仲介手数料としていくらか頂くだけでもかなりの金額になります。
こうしたサービスを3,4年後には自社で担えることを目指しています。
生まれ育った地域への恩返し!地域社会に馴染んだ会社を目指す
先ほど商工会議所や地元の繋がりというお話もあったので、それに関連した質問ですが、貴社は非常に地域と強い繋がりがあると感じました。それだけでなく大々的に広告を打っていたり、スポーツ実業団のスポンサーをされていたりと、意識的に地域社会に馴染んでいこうとされていますよね。こういった取り組みによって、地域でどのような役割を担っていこうとお考えですか。コロナ禍前は地元のバザーやお祭りに積極的に参加されていたそう。こうして地域に根付くための活動を積極的に行っているのも博愛社の大きな特徴のひとつ。
村上社長:私自身、この浦和に生まれ育ってきましたから、地域への還元をどんどんしていけるポジションを目指しているんです。そのためにも、弊社はこの地域で何かしらの一番にならなきゃ駄目だと考えています。
ですが売り上げが業界で一番大きな会社を今から作れるか?というと、最初にお話させていただいたとおりなかなか難しいですし、さいたま市の一番になることもかなり難しいことです。
そこでまずは、会社の最寄りであるこの駅で一番の葬儀屋になろうということを心がけています。新しく出店するときも、例えば隣の駅などの小さなエリアで少しずつ一番になって、ドミナントでやっていけたら良いなと思っています。
そこで広告についても、一体どんな広告をどんな媒体で出すのかと沢山考えました。
たとえば大々的に打てるテレビCMは良いですが、かなりお金がかかります。それに必ず地元の人がご覧いただけるかは分かりません。
地元に密着してドミナントでやっていくなら、地元で目に付くところに大きな広告を出していこうという方針になりました。
そこで最寄り駅に大きな看板広告を出すようになったんです。
そうして少しずつ利益が出てきたので、色々な所に貢献をしたいなと考えました。例えば自転車のロードチームのスポンサーを始めたのも、スポーツを通じて地域を盛り上げていけたらといいな、と思ったことが始まりです。
弊社は代々この浦和という地で葬儀業を営んできましたから、地域で利益を出せる様になったら、街が盛り上がるような行事やイベントにたくさん協賛して還元していきたいなと、そういう風に思っています。
浦和のスポーツというと、個人的にはサッカーのイメージが非常に強いですが、それ以外にも地域に根付いたスポーツがたくさん生まれてくれたら面白そうですね。
村上社長:そうですよね。
自転車のロードチームを現在は応援していますが、新しく卓球のプロチームと、バスケットボールのチームもできたのでスポンサーになりたいなと考えています。
スポーツを応援することでどんどん地域を盛り上げていくことに貢献できたら、それはとても嬉しいことですね。
あとはプロスポーツのスポンサーだけでなく、コロナ禍以前は会員様向けのバスツアーや、地域のお祭りに露店を出したりもしていました。露店ではベーコンを焼いたりビールを売ったりして、収益はさいたま市に寄付していたんですよ。
弊社を知っていただくことも大切ですが、スタッフと街の人たちの交流から生まれる良い影響もあると考えています。こうした交流を経て、スタッフのファンが生まれてくれたら良いなと思います。
葬儀のサプライズのお話でも感じましたが、スタッフさんの独自性を大切にされているんですね。
村上社長:はい、今運営しているYoutubeチャンネルでもゆくゆくはスタッフ一人ひとりの仕事風景を紹介する動画を作成したいなと思っています。
実はバスツアーやお祭りを企画するための予算が、昨今のコロナ禍でそのまま手付かずになっていたんです。使わないのももったいないので、その予算を使って機材を揃えてYoutubeチャンネルを開設することになりました。
弊社のお客様はシニア層が多いので、最初はYoutubeチャンネルを持つのはまだ早いかなとも思っていました。ですが、Youtubeを通してどんな会社なのか、どんな人が働いているのかという事を知っていただき、少しでも身近に感じていただけるツールになればいいのかな、という思いで始めることにしました。
実際ゲストはほとんど呼ばず、自社のスタッフだけで動画制作をしています。
編集作業についても、最初は商工会議所の知り合いへ依頼していましたが、今は弊社の事務員でやりたいと言ってくれた社員がいるのでお任せしているんですよ。
まだまだ浸透するには時間がかかると思いますが、将来的にはYoutubeやLINE@に登録していただいて、色々な告知をご覧いただけるようになる…という風にしたいですね。そのために今からコンテンツを充実させておこうと思って頑張っています。
ありがとうございます。
それでは前半最後ということで、これから葬儀業界を目指したい方や、貴社にこれから応募したいという方に向けてメッセージをお願いします。
村上社長:葬儀業界を変えたい!という方にぜひ頑張っていただきたいですね。
というのも、葬儀業界や仏事業界はブラックボックスのような時代が長く続いてきました。だんだんとそうした時代は終わりに向かっていますが、古い考え方をする人はまだたくさんいます。ですから一緒にもっとホワイトな業界にしていけたら良いなと思います。
少し業種が変わりますが、ブライダル業界のようになれたら良いなと思っているんです。
葬儀とは真逆で、コロナ禍で結婚式の件数が減り、結婚する人も減っているのにブライダル業界の単価は右肩上がりなんですよ。それはサービスの質を追求し続けて研鑽した結果じゃないかな、と私は思っています。
ところが葬儀業界は亡くなる人が増えているのに、どんどん単価が下落しています。葬儀にお金を払う価値をお客様が見いだせなくなっているからではないかな、と私は考えています。お金を払う対価に見合ったサービスを提供できていれば、お客様も必ず満足してくださるはずです。
ですからサービスの質を高めていくことを業界全体で取り組んでいきたいなと思っています。
業界全体を底上げできれば、葬儀業界がよくなります。単価の下落や価格競争から抜け出して「葬儀業は究極のサービス業だよね」って言って頂けるのを一緒に目指していきたいですね。
ありがとうございます。
編集後記 前編
地域に根差した会社運営や、提供されるサービスへの高いこだわりだけでなく、これからこんなサービスも作りたいという将来のビジョンについてもこっそり教えていただきました。
葬儀のその後に繋がるサービスの提供まで行うことで、葬儀自体のクオリティとお客様の評価が上がったというお話を伺った時は、驚きと同時に納得してしまいました。
今後はより提供するサービスの向上を図ることで、価格競争を脱したいと話す村上社長。新しいサービスも考え中とのことで、これからの博愛社からも目が離せません!